「沈む、トリフォリウム」6P

舞い降りたのは、僕が死んでから1週間後の世界。

大好きなキミには、まずは家族を殺されるという僕と同じ、いや、それ以上の苦しみを味わってもらいたい…。

僕は裏社会を走り回り、人間の記憶を次々とのぞきみて、繋ぎ合わせるようにその人の情報を掴んだ。

「あの人の名前はゆらめきちゃん…か!」

小さな小屋みたいな家で兄妹3人で暮らしているみたい。

そして僕はゆらめきちゃんがいない時間帯を狙って、その家へ入ったんだ。

「こんにちは、きらめきちゃん!」

即座に、僕の背後にまわった銀色の瞳が襲いかかってくる。

笑顔で振り返ると、銀色の瞳は困惑に揺れた。

(双子の弟、きらめきちゃん。ゆらめきちゃんと同じ顔…。こんな顔してるのか…可愛いなぁ。ねぇ、きらめきちゃん、ささめきちゃんを先に逃がしたようだけど、

今日は君に会いたかったんだよ…?)

ほとんどの情報はこの情報屋、「きらめき」を中心に張り巡らされていた。確かな人脈の中で、情報を共有していたようだけれど、記憶を盗み見るだなんて、ずるかったかな。

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あっという間に僕に組み敷かれたきらめきちゃんに僕は笑顔で言ったんだ。

「これからきらめきちゃんを拷問するよ。暗殺者ゆらめきの情報を吐いたら、楽にいかせてあげる。」

「あぁ、お前、に、人間じゃねぇな…?話せるわけないだろう、だっておれは何も知らない!!本当に知らないんだ!!!」

記憶をのぞいて、情報は全てお見通しだった。

キミが家族の情報を吐くような奴じゃないってこともね。

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「…ァ……」

「痛い?苦しい?でも、もうちょっと頑張って!死ぬ前にやって欲しいことがあるんだ」

僕は部屋にあったスケッチブックを持ってくる。

「ここに イケ と書いて。キミの血でね。そしたら、こっそり逃がしたささめきちゃんには手を出さないことにする。痛かったね?頑張ったご褒美だよ?」

「くっそ……くっそぉ…ぁ…ぅ…」

そして息絶えたきらめきちゃんを見下ろす。

(痛めつけて殺すだけじゃ足りない。だってキミが情報と暗殺の依頼を管理していたんだ!ゆらめきちゃんに僕のお母さんとお父さんの暗殺を指示したのはキミでしょ?)

僕は現実世界から更に下界へと堕ち、きらめきちゃんの魂を追いかけた。地獄へと続く大きな穴の、真っ赤な岩で出来たその壁に手をかける。

何とか自分が落ちてしまわないよう踏ん張りながら、地獄に堕ちるその腕を、

きらめきちゃんの腕をつかんだ。

「は、離せ!…死んでからも
追いかけてくるなんて最低だぞ!!悪魔!!!!!」

「地獄に堕ちるなんてつまらないからね、行かせないよ!」

僕は足に力を込めて、壁に穴を開けた。

「きらめきちゃんの行き先はこっちだ!」

空いた穴は大人がギリギリ入る程の大きさだ。その中にきらめきちゃんを引き上げ、押し込める。

「何がしたいんだ…うわっ!!」

そして、その頭を殴りつけ、頭蓋骨に穴を開けた。空いた穴から、大量の情報が水のように流れ出る。またひまわりの花びらが湧き出し、辺りを舞った。その花は恐らく、兄妹への想い、思い出…。

「どんどん自分が分からなくなっていくでしょ?幽霊の体の中身が無くなってしまったら記憶も自分のことも忘れちゃうんだよ。」

悪魔から聞いたその情報。僕は空っぽになったきらめきちゃんの頭に、作り出した造花のひまわりを適当に詰め込んで塞いだ。

それから彼を穴の奥へと蹴り飛ばし、穴の入口を塞いで閉じ込めてやったんだ。

「自分のこともわからなくなった可哀想な幽霊ちゃん…キミにあげた造花のひまわりには、僕の心と力を少しだけ加えてあるから、

せいぜいその狭い世界で好きに遊んでさ、

孤独に押し潰されて、狂えばいいよ

永遠にね。」

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(困ったなぁ…。)

羽のない僕が現実世界にもどるには、地獄の赤い岩壁を自力でよじ登るしかなかった。それでも、僕の目的を果たす為なら苦しさも指先の痛みも感じなかった。

2時間ほどかけてなんとか現実世界まで登りきったら、

…現実世界では1年の時間が過ぎていた。

(地獄や現実世界…世界によって、時間の流れる速度が違うなんて!流石に盲点だったな…同じ顔をしていると思うと興奮してちょっと遊びすぎちゃったかも…。僕の魂はもうあと1ヶ月あるかないかってところなのに、またゆらめきちゃんを探し直さないといけないっ)

でも、あの時きらめきちゃんはスケッチブックに「イケ」という文字を残してくれた…。それに、きらめきちゃんはささめきちゃんに「お前はまだ子供だから何とかなる、おれをおいて表社会ににげろ」と言っていたようだったし…だから、恐らくゆらめきちゃんは、

ささめきちゃんを追って…

「表社会にいる!」

(そうだ…いいことを思いついた。まずは、ささめきちゃんを探そう♪)

1日も無駄にできない。今日中にケリをつける!

図書館、新聞紙、テレビ…また、人混みの中で、大量の記憶を覗き、駆け回り、その日のうちに、青い髪と赤い瞳をした可愛い女の子が1年前保護されたという情報の足をつかみ、彼女を見つけた。

中学校からの帰り道、彼女を呼び止める。

「こんにちは、僕は探偵です。ささめきちゃんだよね…ちょっと、お話いいですか?」

「た、探偵さん?」

近くのカフェに入る。怪しむ彼女に、僕は、僕特製の死んだきらめきちゃんの写真をこっそりみせた。

「…っ!!」

「彼を殺したのは僕です。あなたが彼の妹であることも知っています。」

僕は直ぐに写真を胸ポケットにしまう。

「…目的は何?私も殺すために追いかけてきたってこと?」

「いや、違います。僕の目的は彼の双子の兄です。」

「なるほどね…その事件の時、私は保護されるために交番へ走ったの。それからは記憶喪失の女の子の振りをして、施設で暮らさせてもらってる。悪いけど、兄の居場所は本当に知らないわ。あなたも自分の身を危険に晒したくなかったら、裏社会のこととは縁を切ることね。」

「あなたなら居場所を知っているのではと思ったのですが…その様子では、何も知らないようですね。残念です、では。」

(ゆらめきちゃん…いや、しんげつちゃんの居場所はとっくにわかっている。

あんなに派手に活躍していたらね。)

これは、ささめきちゃんとしんげつちゃんを出会わせないようにし、接点を無くすための細工。ささめきちゃんは裏社会のことを、そして「ゆらめきちゃん」のことを嗅ぎ回ってる僕の存在に驚いたはず。恐らくこれをきっかけに、ささめきちゃんはしんげつちゃんに、2人にしか分からない様な形でメッセージを送り、「私に近づくな」と警告をするだろう。

(しんげつちゃんには、家族に別れを告げられたり、失望される時の悲しみも感じて欲しいと考えているからね。)

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僕はまた地獄へ続く岩壁に降りた。現実世界の時間を進めるためだ。限界まで壁にぶら下がり、またよじ登る。

「はは、身体中が痛いな…。」

2年の時間が進んだ現実世界へ…。

(きらめきちゃんを殺したのが3年前…)

朝日を浴びながら、新聞に目を通し、考える。

(やっぱりささめきちゃんが事件を起こした!これは、しんげつちゃんへの私に近づくなというメッセージに間違いないね。ビンゴビンゴ。

…しんげつちゃん、ショックを受けているだろうなぁ。きっと、妹にあいたいがためにモデルなんかやってたんだもんね。

生きる意味見失っちゃった?

早くその、可愛い顔を見たい。

さぁ、一緒に残りの時間を楽しもうよ!

君の人生も、心もめちゃくちゃにしてあげる。

ずっとずっと、君のことで、頭がいっぱいなんだよ?)

「ああ…大好き♡♡」

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運命なんて話はもちろん嘘。

しんげつちゃんがまた人を殺して表社会で取り返しのつかないことをして、人生を狂わせるための嘘。モデルとしての社会的地位も、富も、これからの人生も全て奪い、捨てさせるための嘘。

しんげつちゃんの運命なんて、本当は全部ぼくが握っていたんだよ。

ああそれから、しんげつちゃんが病気って話ももちろん嘘。

僕が用意したのは、カプセル型の特性の毒薬。それを飲めば、僕の好きなタイミングで呼吸困難になって殺せる。

殴った後に飲ませた。

…本人は媚薬かなにかだと思っていたかもね。

しんげつちゃんと過ごす残された時間、それはもう特別だったよ。

僕の心を支配した、あの刃のような銀色の瞳がいつもそばにある。そして静かに華麗に命を奪うその動作も特等席から見られる。

最高でしょ?

自分を押し殺していたしんげつちゃんが僕の手によって解放され、富も名誉も持っていたしんげつちゃんが全てを無くして僕だけが残る。

そして、僕に心を満たされ、

僕に乱されていく。

大嫌いで大好きなしんげつちゃん。

「可愛くて可愛くて仕方がなかった!!」

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しんげつちゃんの冷たくなったその体を、まるでお姫様のように大切に抱えた。

入口とは反対の岩壁を小さく壊し、岩の中を移動していく。そして別の穴の中へと出てきた。この穴からだと、海がもうすぐ側にある。腰ほどの深さの水が目の前に広がっている。

ここは天井が、周りが岩に囲まれているから、警察達にも見えないんだ。

夜の海風が気持ちいい。

ちらりと見やると、岩壁にもたれ掛かるように昨夜病院から攫い、殺したささめきちゃんが倒れていた。

僕はしんげつちゃんを抱えたまま、海へと入り、静かに、まっすぐに、進んでいく。

徐々に深くなっていく海。

冷たい

けれど、最高の気分だ。

(大好きなしんげつちゃん。しんげつちゃんは地獄にはいけないよ。なぜだって?今から僕が最期の力を振り絞るからさ。しんげつちゃんの魂は僕の消えていく魂の道連れ!

そうすれば…永遠に一緒にいられるでしょ?)

ブクブク…

サイレンの音が遠くなっていく。

キミが最期にくれた「大好き」の言葉が胸の中を反響する。

海の底へ沈んでいく。

何も無くなっていく。

「大好き…」

僕は最期にそう、呟いた。

END

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