今までボク(ルキソス)は何度も時間を飛び越えては色んなほたるさんと出会ってきた。
怒りん坊のほたるさん、冷たくて意地悪なほたるさん、明るくて元気なほたるさん…色々なほたるさんを仕立てて、色々な角度から出会ってきた。友達、同僚、恋人、ライバル…恨まれたり好かれたり…様々な関係を築いてきた。
そしてやっとほたるさんと、友達も恋人も超えた関係、心から愛し合う家族になることができた。いつも壁ができちゃったり、仲良くなれなかったりで、こんなに上手くいくことははじめてだったんだ…。
この世界のほたるさんはボクの嘘をまるまる信じていたし、ボクのことなんて何にも知らない。キミが今まで、友達も恋人もいなかったことだって無関係じゃないのにさ。実は全部…ボクがキミの過去や運命に干渉して、その種を潰していたんだよ?。
だからこそ、こんなにも興奮してしまう。愛おしくて愛おしくて、触れたくて物足りなくて。
もっと見たくて、壊したくなる。
いつ気がつくかなぁって、あの巾着袋とペンダントはわざと棚に置いていたんだ。のんびり屋のほたるさんは、棚がすぐに倒れるように細工をするまでしないと、全然気が付かなかったけれどね。
もうひとつのペンダントの存在はほたるさんにとって1番大きな疑問を作り出す、そうでしょ?。時間を超えるために必要な大切な物だけど上手く使って、とにかくほたるさんの不安を煽って弱らせて、そこにボクの欲望をぶつけてみたかった。
時間をかけて準備してきた、この日をずっと楽しみにしていた。
全部ほたるさんが魅力的なのがいけないんだよ。
ボクのこと、ペンダントのこと、色々教えてあげたらまた泣くかな?
この世界だけのほたるさんの、新しくて特別な魅力を教えてくれるかな?
酷いことされたのに、ボクのことまだ信じてる…本当に健気だね。
絶望なんて知らないもんね。
暴いて、植えてやりたいよ。
この時間、この世界の可愛い可愛いほたるさんをいっぱい楽しみおわったら、ボクはいつものように、ほたるさんのペンダントを奪って目の前で割ってみせてから
殺してしまうんだろうね。
切ったり刺したり溺れさせたり閉じ込めたり燃やしたりなんかして…。
飽きるまでぜんぶぜんぶ見尽くしたら。そしたらボクらの恋はおしまい、ボクはまた過去に戻って、次のほたるさんと遊ぶんだ。
次はどんなほたるさんにしようかな。
ひひひ…
…ルキソスさんの時間の旅のお話…
ぼく(ルキソス)は元々は旅人でも何でもない、この国でうまれ育ち、洋服屋を営む一般人だった。暴君「ありす」に怯えながらも、平穏に暮らしていたんだ。
でも、ひとつだけ特別な事があった。
それは、可愛いくてしっかりものの彼女がいたこと!
しかも城に住む、王様直属の使用人で、所謂お嬢様。夜、お互い仕事が終わったらお気に入りのデートスポット、泉のほとりで待ち合わせて、喋ったり、彼女の家でお酒を飲んだりする。
「おまたせ!ごめん、まった?あ〜今日もお疲れ様、会えて嬉しい♡」
「あっ、むむ(夢向)ちゃん!わざわざ走らなくてもよかったのに。ぼくも会えて嬉しいよ。」
彼女の背中くらいまである真っ直ぐなピンク色の髪が、弾けるように揺れる。背が小さくて、それから少したれ目なところもめちゃくちゃに可愛い…。
「あのね、おともだちから聞いたの、今日流れ星が見えるんだって、見たいよね!国中を見渡せる丘があるの、一緒に行こう!早く早く〜!」
「わかったわかった、転ばないようにね。」
手を取って駆け出す。むむちゃんのお気に入りの丘の上。ふかふかの草の上に寝っ転がって空を見上げる。手を繋ぎ、指をからませながら、いくつもの流れ星をふたりで見た。
「凄い!あたし、流れ星はじめてみた。ほら、何かお願いごとしないとっ、あ〜迷う!」
「むむちゃんとずっと一緒にいられますように〜。」
「それは決定事項だから星にお願いするまでもないでしょ♡こういう時はありったけのお金をくださいとか、大富豪になりたいとか、金品財宝を…とか、そういうことを願うの♪」
「むむちゃん面白いなぁ。さいこう!」
ちなみに休日は一日中2人きりで過ごす。和菓子屋さんで団子やおはぎを食べたり、むむちゃんに似合う洋服を探しに国中の洋服屋さんを巡ったり。
流れ星を見た帰り道…ぼくとむむちゃんの左手の薬指に光る、ピンクの宝石がついた婚約指輪。勇気をだしてプレゼントしたんだ。流れ星や星空なんかとは比べ物にならないくらいに輝く、溢れるような彼女の笑顔は幸せそのものだった。
むむちゃんと出会ったのはあの反乱が起こる2年前…。
雪の降る夜のことだった。
散歩の途中、お気に入りの泉のほとりに立ち寄って休憩し、さぁ帰ろうかと歩き始めたとき、突然後ろから明るい女の子の声がしたんだ。
「お兄さん、お財布落としてるよ!」
「…え?本当だ、ありがとう。」
女の子がぼくの長財布(ポケットに入れていた)を拾って駆け寄ってくる。
「よかった、これ凄く大事にしていたんだ。自分で作ったお財布だったからさ。」
「凄いじゃん、可愛いデザインの財布!良かった〜、あたしね、普段はこんな奥まで歩いてくることなんてないんだ。今日たまたま仕事で嫌なことあってさ、色々考えながら歩いてたらこの泉まで来ちゃったのよ。お兄さんの笑顔みたら、ちょっとだけスッキリしたわ〜。」
「ほんと?そう言って貰えると嬉しいな…でも、まだちょっと辛そうな顔してるように見えるけど?」
「まあね、ミスって怒られて、いっぱい泣いちゃったから。」
「そうだ。もし嫌じゃなかったら…話聞くよ?ぼくでよければ愚痴とか、なんでも!吐き出せばスッキリするでしょ。」
「え、マジー!お兄さんめちゃくちゃ優しいじゃん!ん〜じゃあ城で話そうよ、あたし城に住んでるの、美味しいお酒もあるから愚痴きいてよ〜。入って大丈夫な様にすぐ許可とってくるから。」
「し、城!?大丈夫かい!?」
「大丈夫!お兄さんのこともう捕まえたからね〜、ほら、早く行こ!あたしの名前はむむ、気軽にむむちゃんって呼んで!」
それからぼくたちが恋人になるのに、時間はかからなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーそしてあの日がやってきたー
ボクの運命の分岐点、後に革命と呼ばれたあの大反乱。
春の陽気をかき消す怒号、雄叫び。鉄の剣がぶつかる音。逃げ惑う人の悲鳴や足音、パチパチごうごうと鳴る炎の声、泣き叫ぶ声。それは太陽の下、突然はじまった。
「!?、城に火もついてる、いったい何が起きてるんだ!?!?」
いつも通り自分の店(洋服屋)に立っていたぼくは、そんな慌ただしい戦いの様子を目の当たりにし、お隣さんに駆け込んだ。
「反乱よ、ついに反乱が起きたの!悪魔の心をもつ王を引きずり降ろすための…。危ないからアンタはもう家(ここ)にいて。外にでちゃだめよ!」
「…ついに、か。…えっ!?」
今、むむちゃん…仕事をしている時間だよね!?
まさか…あの城の中にいるかもしれない!?
いや、そんな事、有り得ないよね?
冷たい汗が流れる…。
こわい
…確かめないと!
確かめないと気が済まない!
「ちょっとどこにいくの、今ふらふらしたら巻き込まれて死ぬわよ!」
「でも!」
ぼくはお隣さんの手を振り払った。店のこともほっぽり出して、逃げ惑う人々をかき分け、
燃える城へと駆け出した。
隣で人が切られる、死んでいく。城に近づくにつれて力尽きた人が重なって、横たわっている。どろどろの赤い道をただ、前だけを見て走る。前だけを!
死体を踏み越え、戦いを掻い潜り、燃え盛る城の中へと押し進んだ。
中に入ると熱風が皮膚を焼いた。
「ゲホゲホ、むむ…ちゃん…。」
それでも、彼女がいるはずの3階の部屋へと向かう、崩れそうな階段をひたすらにかけのぼる。
「むむちゃん!!!むむちゃん!!!」
扉を蹴破って開けた。2人で仲良くお酒を飲んだ、思い出に満ちた部屋に駆け込んだ。
「…。」
立ち止まる、その光景に言葉を失う。
そこにいたのは
熱い体で目を閉じて、静かに眠る彼女だった。
「…むむちゃん、うそ…。うそ。」
焦げた指輪がキラキラと光っている。揺さぶって名前を呼んでみても、お人形のようにだらりとした赤い体…目を開けてくれることはなかった。彼女に触れた手のひらには、爛れて零れた血がべたりとついた。
どうして…どうしてむむちゃんだけ逃げ遅れたんだ。
扉を蹴破って開けたことを思い出す。まさか、熱気で扉が開かなくなった?
どうして…
どうして
どうして!?
ありえない、受け入れられる訳が無い!。
きみだけだった、きみしかいなかった、ぼくはきみさえいれば何も、何もいらなかった。
今日の夜も泉のほとりで顔を合わせて、昨日みたいに2人でお酒を飲んだりして、これからも傍にいられるんだって信じていた。むむちゃんとずっと一緒にいられますように…そんな願い事を、流れ星を見ながら、決定事項だって笑いあったじゃないか…それなのに。
ぼくは、鉄板のように熱い床の上に崩れ落ちた…。
炎がメラメラとぼくたちを囲っていく。
その時、遠くから聞こえた話し声。
「ヤツがそっちにいったぞ!!もう逃がすな!!」
「剣が強すぎる…。大人しく捕まれば良いものを…。」
「うろうろしやがって…なにやってんだ。りきさん、どうします?」
「…ふん、オレにまかせろ!!追いかける!!」
血の匂い。乱暴な足音。剣を引きずる音。
ギー…ギー…
あれ、誰かが入ってきた…?背後から聞こえた、喉が焼けてかすれた男の人の声。
「はぁ…はぁ…、きみ、どうしてここに…?にげおくれたひと、まだいた…!。」
「…。」
「きみがさいごかな…。ここはあぶないから。
ごめんよ…。」
視界の隅に黄金の大剣が見えた…。
ぼくは男の人に抱えられ、部屋の窓から外へと投げ落とされる。木にひっかかってから、そのまま地面に強く体を打ち付けた。
「…ぅぐ…。」
息が詰まったような感覚。全身が痛い…特に右脚が千切れそうなくらいに痛い。
手をやると膝がおかしな方向に曲がっていた。
ああ…もう、なにも、考えられないよ。
かんがえたくない。
大きな声も戦いの音も、聞こえなくなっていく。そして、「王を捕らえた」という力強い声が遠くから響いてきた、そんな気がした。
日が落ちる、暗くなっていく。ぼくの時間は止まったまま…。
ぼくは薬指の指輪を外して握りしめ、折れた右脚の痛みも忘れて立ち上がり、とぼとぼ歩き出した。行くところなんてない、だけど体は、一緒に流れ星を見た思い出の丘の上へと向かっていた…。
丘の上からは燃えて形もわからなくなった城が見えた。
空を見上げると…曇っている上に煙が立ち込めていて、星はひとつも見えなかった。
あぁ
むむちゃんを助けてあげられなかった。
せめてあんな城から連れ出してあげたかった。
ぼくだけが…生きている。
ぼくだけがここにいる。
立ち尽くし、何も無い空を眺める…。
…ふと、ゴソゴソと音がした。音のした方向を見てみると、草に紛れて誰かが倒れていた。
はじめは死んでいるのかと思った…けれど重い体を動かして近づいてみると…倒れている男の人は泣いていた。
ぼくの存在にも気が付かずに、服も緑の髪もぐしゃぐしゃにして。
「…ありす…ありす…。いかないで…。
ありす…。
怖い思いをさせてごめんなさい…。
ありす…。」
王様の名前を呟き続けているその男の人も、ぼくと同じように指輪を握りしめている…。ぼくは思わず声をかけた。
「…お、お兄さん、大丈夫?」
男の人は、ぽろぽろ涙を零しながら顔を上げ、腫れた瞼と虚ろな瞳をこちらに向けた。ぼくはそっと手を差し出しだした。
「…。」
掴まれたその手、立ち上がらせるため彼を引っ張ろうとする…と…。
「うわぁああ!!!!!」
「…ッ、ど、どうしました!?」
力を入れた瞬間、右脚、いや全身が痛んだ。忘れていた鋭い激痛が心と体を貫き、ぼくはその場に崩れる様に倒れてしまった。
「…あわわ、大丈夫、ですか?え?あ、脚が…。」
額に汗を滲ませ、苦しむぼく…男の人は困惑しながらも、直ぐにぼくを抱えあげて背負った。
「……………僕は、大丈夫ですよ。さぁ、お医者さんに行きましょう。連れて行ってあげますから。」
「ぅ…う…。」
優しい男の人の背中に揺られる。ゆっくりと進んでいく。思い出した痛みはズキズキとぼくの体と心を破る。曖昧な意識の中、ぼくはその男に話しかけた。
「あの、初めてあったのにごめんね。ありがとう…。
ぼくの名前は
「ほたる」っていうんだ。」
「僕はみどりといいます、僕のことは気にしないでください。大丈夫です、治療すればきっとまた歩けるようになりますよ。」
「うん…。」
…けれど、大丈夫な訳がなかった。気にしないでいられる訳がなかった。彼女の笑顔と、眠った顔は脳に焼き付いて離れない。
ぼくは、きっと、悲しみに侵されてしまったんだ。だから、あんなことを言ったんだ。
「…ねぇ、みどりさん。今、すごく、すごく悲しいんだ…。」
「…。」
「お城が燃えたのは…誰のせいなのかな。
ぼくがこっそり憧れてた王様がこれから死ぬのは誰のせいなのかな。
大切な人が遠いところに行ってしまうことも
ぜんぶ、ぜんぶ、誰のせいだと思う…?
ごめんなさい、わかってるんだよ。
きっと、ぜんぶ、ぼくn…「僕のせいですよ。ぜんぶ僕のせいですから。」
ぼくの言葉を遮るように、立ち止まって少しだけ強い口調でそう言ったみどりさん。
そして顔をこちらに向けて、微笑んでみせた。
それからはもう、一言も話してはくれなかった。
お医者さんについた時も、別れ際も。
どこかに走り去って行くその背中をただ、追いかけるように見つめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
反乱を先導し王様を捕らえた「りき(梨黄)」という男が中心となってこの国は変わっていく…。りきは大きな槍と盾使いの男で、その豪快かつ器用な槍さばきで王様を追い詰めたらしい。
その後のことはあまり覚えていない。
ただ漠然と、時だけが、あっという間に流れていく。
脚の大怪我はようやく完治し、松葉杖無しで歩くことも出来るようにもなった。
ーでもぼくは感情を、焼け落ちたお城の中に置いてきていたー
皆、笑顔を無くして痩せていくぼくを心配し、家まで料理を持ってきてくれたり、気さくに話しかけてくれたりする。
それでも…何も、感じない。
何もしたくない、できないんだよ。
こんなになってしまって、もう、穴の空いた暗い未来しか見えない。
もう半年は店を閉め、家に篭っている。
ぼくは首からさげていたペンダントを弱々しく握った…。温もりを感じる、微かな優しい温もりを…。
そのとき心にわずかな光が差し込んだ気がした。
お母さんの言葉を思い出す。
『この石の名前は「時間の宝石」。身につけていれば、もしもあなたの命があぶなくなってしまったときに、あなたを守ってくれると思うわ。過去や未来へ…時間を飛び越えて、ね。』
もしかして?
この石を使えば、過去に戻れるかもしれない?
考える…
もし過去に戻れたら、あの反乱を阻止することが出来るかもしれない?
むむちゃんの命も、むむちゃんとの平穏な日々も守られるかもしれない?
反乱を食い止めるにはどうすればいい…そうか、ぼくは反乱があった日も知っているし、重要な役割を担った人物にも心当たりがある。革命の先導者「りき」、王の名を呟き自分のせいだと話した「みどり」…過去に戻り2人の行動を制限できれば…!!!
そうだ…全部2人のせいなんだ。
ぼくは家を飛び出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
岩壁にぶつかる激しい波の音。潮の匂い。
ぼくはペンダントを握りしめて高い高い崖の上にたっていた。
ここから飛び降りれば、確実に命を危険に晒すことになる、そうすれば過去に飛べるかもしれない…。
期待して、ギリギリまで身を乗り出す。
あと一歩先にむむちゃんがいる気がする。むむちゃんが見える気がする。
この心臓の音は、暗い暗い恐怖ではなく明るい明るい期待に違いない。
失敗したら…?そのまま死んでしまったら…?
…その時はその時。
ぼくにはもう、生きる気力なんて残ってやしない。もうむむちゃんはいない、生きていたって、何も変わらないのだから。
さぁ、飛びだそう
…としたその時
誰かが後ろからぼくの腕を掴んだ。
驚いて振り返る。
そこにはピンク色の髪をした背の低い青年がいた。
「…やめとけ、過去に戻れるとかねぇから。」
ピンク色の髪をした青年は、僕の腕を強く掴みなおして、落ち着いた声色で言った。全然気が付かなかった、いつの間に後ろにいたんだ…。
「…きみは?」
「俺はさくら。…その石の持ち主だ、ほら、あと2つ持ってるからこれが証拠な。」
さくらと名乗ったその男の人は、ぼくの腕を掴んでいる手とは、反対の手をぱっと広げて見せてきた。全く同じ黄色の宝石が2つある。ぼくは目を丸くした。
「これはどっかの侵略者がこの星に落としていったヤバい石。別の星の力が込められてる。
元々3つあったんだけど、天国から地上に降りちまったお前の母親が1つパクっていったんだ…でも親子の…大事なお守りなんだろ?無理に回収するのもなぁって思ってずっと様子みてたんだって…。」
「え、じゃあきみが神様?」
「神でもなんでもいいけど、とりあえず過去に戻れるとかねぇから。心が弱くなったからって、自分を捨てる様なことはするなよ。
いいか?「時間」は正しく進んで流れていくものなんだ。それが宇宙の決まりごと。
それを「戻す」とか「過去を変える」とか、誰にも出来ないんだ。どんなヤツにも、神(守り人)にも出来やしないんだ。
それでも無理やり時間を操ろうとすると、「正しい時間が流れている真実の世界」から存在を消されてしまうんだ。正しい時間を失ったそいつは孤独に彷徨い続けることになる。」
「過去に戻ろうとすれば存在ごと消されて、ひとりぼっちになるの…?じゃあこの石はなんなの?」
「そいつは「時間の宝石」。命の危険を感じた時に、時間を操って、時間をとめたり過去と未来を行き来することができる。でもさっき言ったみたいにんな都合のいいことできねぇから…。
実際の仕組みは「自分だけの新しい宇宙(せかい)を作りだす力」を持つ石だ。
でも作り出された世界はあくまで「正しい時間が流れている真実の世界」の偽物(コピー)なんだ。
本物の世界はひとつだけ。魂はひとつだけ。同じ人間なんていない、当たり前だろ?
全てが偽物だからこそ、都合良く時間を操ったり、好きにできる仕組みなんだ。
俺も詳しくは知らねぇけど…偽物の証拠に、偽物の世界には神(俺のコピー)はいないらしい。
時間とか秩序を失った孤独な世界…そんなところ行っちまったら絶対後悔する。しかもその石は1度使うとその力からは逃れられなくなる。死ぬこともできないし、二度と帰ってこられないぜ。
お前の母親は詳しく知らなかったんだ…。それはお前にやるからさ、その代わりただの宝石にしておけよ。ヒビ入れたら効果は無くなる。見えねぇくらいのヒビ入れて、使えなくしてやるよ。
…バカには幸せな石に見えるだろうけど、一般人にはろくでもねぇ拷問器具にしかなんねぇんだよ。」
「…わかった。ありがとう、さくらさん。
でも、何だか安心した…
ぼくは
この石を使うよ。」
「はぁ?拷問器具っつったのが聞こえなかったのか?」
「聞こえたよ。でもさくらさんに…神様に、はっきり言ってしまいたい。
お母さんもむむちゃんも失って…ぼくは
こんな世界、大嫌いなんだよ。
心が弱くなったからって自分を捨てる様なことはするなよ、なんてさ…
きみみたいな人の心が分からない奴が神様だったんだって知って、もっと嫌いになった!。」
「…。」
「自分だけの異世界に行けるなら嬉しいよ…。ぼくは神になって、ぼくの世界でむむちゃんを救ってみせるよ。」
「待てって!神なんかなっても良い事無し…あ!!!」
ぼくはさくらさんの腕を振りほどいて、迷わず飛び降りた。
岩壁、海面にぶつかる前にぼくの体は
黄色の光に包まれて消えた…。
…崖の上、取り残された男はぽつりと言う。
「…あーあ、せっかくお前のこと、助けてやろうって思ってたのに。ちっとも上手くいかねぇな。お前の母親も堕ちちまったし。もう勝手にしろ…。
この反乱だって、元を辿れば俺のせいだし?…こんなクズが神とか言われちまうの、笑っちまうって。
ははは、…はぁ。…。」
そしてどこか諦めたような表情で、寂しげなため息をついた。孤独な男は小さく呟く…。
「人の心がわからない奴、か。お前の母親にも似た様なこと言われたな…。そりゃそうだろ、俺は俺しかいねぇんだ、誰かが教えてくれるわけでもねぇし…、人間の心なんかわかるわけねぇよ。
こんな石の力を使ってまで…どうしてそんな事がしたいんだ。信じて愛し合うだとか、自分を殺すだとか、誰かのために心削ってまで戦うだとか…。
面白いとは思うけど…そんな感情、俺は怖くて触れられない。
わかりたいとも思えねぇんだよ…。」