和菓子パーティの後。夜も深まって、さぁベッドで休もうか…そんな雰囲気になった途端
ぼくはルキソスさんに乱暴に
シーツの上に押し倒された。
「あぅっ…!いたッ、…!?」
瞬間、唇に噛みつかれ、強引に体をまさぐられる。燃えるようにギラギラ光るルキソスさんの黒と白の瞳。いたい、…血の味がした。
手で口を拭うと、端から赤いとろとろがこぼれ落ちた。
「ぇ…?」
衝撃。驚き。ただされるがままに、何も言えなくなる、できなくなる僕。
何?何が起こったの?もしかしてルキソスさん、怒って…いるの?
息がつまる。もちろん、こんなこと、はじめて…。
「る、ルキソスさん…!?」
「大丈夫、ほたるさん。怖くないよ、じっと我慢して大人しくしていてね。」
「…や、どうしたの?」
ぼくと目も合わせてくれないルキソスさんは、ベッドの下からローションを取り出して、それを見せつけるかのように手のひらに伸ばす。…いつもは最初は優しく抱きしめて頭を撫でてくれたりして、それから…。…。
ぼくはたまらず声をあげた。
「ルキソスさんどうしたの!!??こわい、嫌だよ…。」
「…。
ふふ…
ふ…
あはは…
だって、たまらない…。
隠し事して不安になって悩んじゃうほたるさんがあどけなくて、あまりにも可愛らしくて
こんな気分になっちゃったんだよ。
ボクのことが大好きならじっとしていられるよね?。」
「ぇ…。え?」
こんな気分ってどんな気分なの…?追いつかない頭と心はルキソスさんの言葉をまっすぐ受け入れてしまい、ぼくはただただ従順に、じっと体を縮こませた。
ベッドにはりつけられて、ねっとりとした液体に塗れて、激しい苦しさと快楽が同時に押し寄せてくる。恐怖と痛み、食いしばる喘ぎ声。ぼくはルキソスさんの背中ではなく、冷たい布団の端っこを握りしめてぐずぐず泣いた。
その涙をすくいとり、ルキソスさんはぼくの耳元で囁いた。
「ふふ、素敵だよ…ほら、顔をよく見せてごらん。今の気持ちを素直にボクに教えてよ。」
「ぅ…ぅ…。」
「もう、隠し事なんてするから虐めたくなるんだよ。
ボクは…ほたるさんのことなら何でも知っているんだからね。」
そしてルキソスさんはベトベトの手で、黄色の宝石がついたペンダントをぼくの目の前にぶら下げて見せてきた。
「…ぁ!。」
「これは「ボクの」ペンダントさ。ほたるさんは嘘ついたり誤魔化す時、顎を触るんだよね。ばればれだよ。」
「…ん、ごめんなさい、ほんとは黒い巾着袋の中のペンダントも見ちゃった、ごめんなさい…。ごめ…。」
「いいんだよ、ほたるさん、怒っている訳じゃないからね?。
それより、どうかな?
今まで生きてきて、こんなに不安で怖い気持ちにさせられること、1度もなかったでしょ?
なかったよね?
もっともっと教えてあげる
だから
その初めてもボクに頂戴。」
「わかんない、わかんないよ…。」
ルキソスさんは何を言ってるの?
ジタバタもがくと、強い力でがっしりとシーツに頭をおしつけられた。離して、離してよ。心が遠いところに行ってしまったみたいに、ただきみの下で寂しい声を荒らげる。
それから、何とか力を振り絞り、体を起こして見たルキソスさんの表情は…楽しそうな笑顔だった。
ぞっとする。
きみは本当にルキソスさんなの?
ぼくは疑問を投げかける。
「ルキソスさん、ぼくのこと、嫌いになっちゃったの?」
「何を言ってるのさ…、ボクはいつだってほたるさんのことが大好きだよ。そうやって少し怯えながらも、頑張って怒ってる所もね。」
「はぁはぁ、じゃあルキソスさん…教えてよ。ぼく、ルキソスさんに隠し事なんてしたの、これが初めてなんだよ?ほんとだよ?どうして、ぼくの嘘をつくときの癖なんてわかるの…?。
どうしてぼくの事を知ってるの?」
ルキソスさんはふふっ…と笑って、ぼくの頭をよしよしと撫でた。ぎゅっと抱きしめられる。よかったぁ、優しいルキソスさんに戻った…?
「ほたるさんはボクのことが知りたいかい?」
「うん…知りたい。ぼく実はね、どうしてルキソスさんがそのペンダント持ってるのかなぁって悩んじゃってたんだよ。…ほらあそこ、お洋服の所に置いてるけど、ぼくも同じのもってるんだ。お母さんに貰ったたったひとつの物だから…どうしてかなぁって。」
「大丈夫、全部教えてあげるよ。
でもボクの言うこと聞いて、いい子にできたらね。
ほたるさんはいい子でしょ?
ほら、そこに膝ついて…
大人しくボクに抱かれろよ。」
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いつもは愛おしい疲れも痛みも、今日ばかりはただ辛いだけ。いつもは忘れる寒さだって、今日ばかりは心も一緒に冷えている様に感じる。腫れた瞼。紅色のキスのあとだけじゃない…いくつか痣もついている。首を絞められた時が1番怖かったな…。
よろよろと服を着て、ぼくのペンダントもさげて、ベッドの布団にくるまった。
ルキソスさんの手を取って、ぼくの手のひらときゅっと重なりあわせた。
「ルキソスさん…。ぼく、ルキソスさんのこと大好きだよ…でも、こんなのはやだよ。」
「でも、素敵だったよ?素直な性格だからかな、痛い時はいたいって、やめて欲しいときはやめてって、いっぱい叫んで泣いてさ…あんなにかわいそうなほたるさん、はじめて見られた。」
その言葉にまた涙が溢れてくる。ぼくの知らないルキソスさん、冷たい冷たいルキソスさん…怖い?いや、寂しい…。だけど、まだ心のどこかで信じてる。優しいルキソスさんに戻ってくれることを期待してる。
だって、だって…愛してるから。
信じてるから。
お願いだよ、ルキソスさん…。
ぼくの心を置いていかないで…。
「頑張ったね、ほたるさん。…約束だもんね、ボクのこと、全部教えてあげる。」
「…。」
ルキソスさんは、ぼくのではない、もうひとつの黄色の宝石がついたペンダントを、指先でくるくるとまわしている。
「ボクはね…
ほたるさんの持っているペンダントの宝石の力を使って
未来からやって来たんだ。
色んな国を訪れるだけじゃない、ボクは過去や未来を何度も行き来して、歴史を変えたりなんかもしながら、時間の旅をしていたんだ。
あ、そうそう…ほたるさんが読んだあの絵本も未来から持ってきたものなんだよ。「この絵本に描かれていることが事実だったんだよ」って見せてあげるために捨てずに残しておいたんだ。
…なに?そんな顔初めて見た。
愛してるよ。」
そしてルキソスさんは話し始めたんだ。
信じられないような物語を…。
時間の旅の思い出話を…。